ブランパンなによりも複雑な時計づくりに専念していた。

ィーラーであるウォッチ・ブラザーズ・ロンドン(Watch Brothers London)が、ブランパン シックス・マスターピースのスペシャルセットを提供してくれた。今回は1980年代に起きた、ブランパン再生のストーリーをお伝えしていこう。

「1735年の創設以来、ブランパンのクォーツ時計は一度も存在しない。そしてこれからも出ることはないだろう」

 1981年、ジャン-クロード・ビバー氏とそのパートナーであるジャック・ピゲ氏が、ブランパンを2万1500スイスフラン(当時の相場で約245万円)で買収したときに打ち出したのが、今では有名なこのスローガンである。彼らはクォーツショック以来、ほぼ休眠状態にあった時計メーカーのブランパンを、あの当時華やかだった新型クォーツウォッチに対して伝統あふれる逸品という位置づけをしていた。その11年後、ビバーはブランパンをスウォッチグループに6000万スイスフラン(当時の相場で約54億1450万円)で売却している。

ブランパンスーパーコピー時計代引きのこの時代は、キャッチーなスローガンとビバー氏の手腕による天才的なマーケティングの物語として語られることが多いが、同時に真の時計製造も行われていた。ビバー氏のパートナーだったピゲ氏は、エボーシュメーカーであるフレデリック・ピゲの息子だった。ピゲ氏とビバー氏は、ブランパンの“6本の傑作”(シックス・マスターピース)と現在呼ばれている作品をつくるべく、ともに計画を練った。クォーツショック以降多くの人が、このときには2度と戻れないだろうと思っていた時代に、スイスの伝統的な時計製造の歴史を彷彿とさせる複雑機構を備えたこの6本の機械式時計が誕生したのだ。それがコンプリートカレンダー ムーンフェイズ、ウルトラスリム、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、フライングトゥールビヨンの6つだ。シックス・マスターピースはすべて伝統的な34mmのラウンドケースでつくられ、同時に裏蓋には製造番号が割り当てられている。

 ビバー氏がTalking Watchesの記事で語ったように、ブランパンがコンプリートカレンダー ムーンフェイズを初めて発表したのは1983年のこと。ウルトラスリム Ref.0021はその翌年に登場した。80年代の終わりまでにブランパンは、シックス・マスターピースをすべて発表している。ビバー氏はもちろん、それぞれの名品のプラチナ製、No.00を保管しており、取材のなかで何本か見せてもらった。

jean claude biver blancpain
2万1500スイスフラン(当時の相場で約245万円)を6000万スイスフラン(当時の相場で約54億1450万円)に変えたなら、あなたもこれぐらい威張れるだろう。

 ではつくりたかったコンプリケーションをすべて実現したら、次はどうするのだろうか? もちろん、これらの機能をすべて組み合わせるのだ。1990年末、ブランパンは超薄型ムーブメントにパーペチュアルカレンダー、ムーンフェイズ、スプリットセコンドクロノグラフ、トゥールビヨン、ミニッツリピーターなどを搭載した、グランド・コンプリケーション 1735を発表した。

 1991年、ブランパンはシックス・マスターピースと、それらを組み合わせたグランド・コンプリケーション完成を記念し、それぞれ6本のマスターピースすべてをセットにした限定ボックスを発売する。全99セット限定でシックス・マスターピースをそれぞれプラチナ製にし、豪華なチェッカーボードボックスに入れてデリバリーしたのだ。色々な意味で、ビバー時代のブランパンの最高峰ともいえるだろう。翌年、ブランパンはスウォッチグループに売却された。さて、この99セットのうち、ウォッチ・ブラザーズ・ロンドンにてNo.1を発見した。これはブランパンと時計史に残る素晴らしい作品であり、コレクターのあいだで今再び評価され始めている。これを機にシックス・マスターピースを詳しく深掘りしていこうではないか。

シックス・マスターピースの背景
blancpain six masterpieces set platinum
Image (and hero image): Courtesy of Watch Brothers London/Owen Lawton

 ビバー氏はマーケティングの天才であることは間違いないが、クォーツウォッチに関する話をでっち上げることさえあった。「ある日スイス時計協会(Fédération Horlogère)から手紙が届いた」と、ビバー氏は2019年にヨーロッパスター内でそう語っている。「クォーツには発がん性があり、電池だから危険だ、と会合で発言していたことを手紙で咎められました」。しかしビバー氏とピゲ氏はそのささいな嘘の裏で、ブランパンの伝統的な時計製造のビジョンも抱いていた。

コンプリートカレンダー ムーンフェイズ Ref.6595
Blancpain complete calendar moonphase 6595
ドン・マクリーン(Don McLean)氏のTalking Watches記事で登場したブランパンの6595。シックス・マスターピースはオーストリッチのストラップで販売されることが多かったが、この写真のようにゲイ・フレアー社製のブレスレットをつけて提供されたこともあった。

「ブランパンを時と分だけの時計で再出発させたくはなかった。伝統的な渋さと美しい仕上げだけでなく、プラスアルファの機能も必要だったのです。ムーンフェイズは、ノスタルジーと詩的に満ちあふれた、理想的な機構でした」とビバー氏は言う。ビバー氏は、1940年代から使われていなかったカレンダーとムーンフェイズのムーブメントをつくるために必要な道具を、フレデリック・ピゲの屋根裏部屋ですべて見つけたという。この出来事からブランパンはスタートしたのだ。

Blancpain 6395 and 6596 calendar moonphase
1983年に発表されたミニムーンフェイズ(Ref.6395)と通常のサイズ(Ref.6595)。

 1983年に、ブランパンはコンプリートカレンダー ムーンフェイズ Ref.6595(34mm径)を発表。またあわせて26mmサイズのRef.6395も発表し、これは当時最小のコンプリートカレンダー ムーンフェイズとして記録も打ち立てている。小さくて薄く、そして6時位置にモナリザの微笑みのようなムーンフェイズを配したこの時計は、複雑で伝統的な時計製造でありながら、それを声高に主張することもないという、新しいブランパンが何をするためにあるのかという声明のようでもあった。クォーツではできない、高級感あふれる時計製造なのだと。ちなみに参考までにRef.6595は、スウォッチが市場に参入した同年に発売している。

 ところで、ここに掲載されている画像の多くがホワイト文字盤で宝石もなし、騒がしくないという傑作のなかでも最も保守的なものだ。しかし、これらのリファレンスの多くにはマザー・オブ・パールのダイヤル、宝石がセットされたベゼル、ピンク・オン・ピンクの例といった何十種類ものバリエーションが存在している。ただしどれも、コレクターがなかなか抜け出すことができない状況に陥ってまで何年も探し回るような、希少で美しいものばかりである。

ウルトラスリム Ref.0021
blancpain ultra-thin ref. 0021
プラチナ製のブランパン ウルトラスリムが2本。右はスケルトン仕様だ。Images: Courtesy of Antiquorum

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ブランパンの有名なスローガンを強調した、ウルトラスリム Ref.0021の広告。

 翌年、ブランパンは2本目となるマスターピース、ウルトラスリム Ref.0021を製造した。内部には1925年にピゲのクライアントのために初めて使用された、有名なF.ピゲのCal.21を搭載している。厚さはわずか1.75mmであり、最薄キャリバーの記録を20年間守っていた。Ref.0021は、さまざまなケースメタル、組み合わせで展開していたが、なかでもいちばん魅力的なのはスケルトン仕様だ。複雑ななかにさらに複雑な要素が含まれているようなものである。さらにブランパンは、Ref.0021の自動巻きモデルであるウルトラスリム Ref.0071も発表している。

 シンプルでエレガントなデザインであり、名作中の名作とまではいかないかもしれないが、このモデルで新しいブランパンの存在を主張していることは確かだ。

パーペチュアルカレンダー Ref.5395
blancpain perpetual calendar 5395
2014年、ジャン-クロード・ビバー氏が我々と時計について語り合ったとき、彼はブランパンを復活させたときのことを話してくれた。ブランパン シックス・マスターピースそれぞれのプラチナ製No.00を保管していた彼は、そのときいくつかの時計を見せてくれたのだ。

 次に、1986年に登場したのが、パーペチュアルカレンダーのRef.5395だ。ほかの傑作機と同様、直径34mmに厚さ9mmという小振りなサイズ感だった。同モデルは3つのインダイヤルと、6時位置にムーンフェイズを備えた、シンメトリーな美しい文字盤を備えている。私にとっては、大手メーカーが同時期に発表したQP(超薄型自動巻きパーペチュアルカレンダーのこと)とも並ぶと思っている(付け加えると、価格はその数分の1だ)。最初のバージョンにはうるう年表示がなかったが、ブランパンはすぐにアップデートを施したRef.5495でそれに応えている(それ以外は似たような感じだ)。

ロレックスミルガウスに本当に100万ドルの価値があるのかということだった。

ジュネーブでのオークションシーズン前、誰もが抱いていたと思われる大きな疑問のひとつは、ロレックス ミルガウスに本当に100万ドルの価値があるのかということだった。というのも、フィリップスオークションにブラックハニカム文字盤を備えた珍しいミルガウス 6541が出品されていたのだ。それはたしかにとても素敵なものだったが、フィリップスがつけた見積もり額に匹敵するほどの“とんでもない額のロレックス”という記録を打ち立てることができるのだろうか?

最終的にこのミルガウスは、224万スイスフラン(日本円で約3億4305万円)で落札。2013年に記録したミルガウスの最高値である31万7000スイスフラン(当時の相場で約3340万円)という結果を大きく伸ばす結果となった。ミルガウスの記録はこの週末に達成された、いくつかのロレックスの高額落札記録のうちのひとつに過ぎない。例えばサザビーズでは、金無垢の6241、“ジョン・プレイヤー・スペシャル”が223万スイスフラン(日本円で約3億4155万円)で落札され、フィリップスでもダイヤモンドをセットした6270が369万スイスフラン(日本円で約5億6515万円)で落札されている。オークション市場のすべてのセクションがそれほど好調をふるったわけではなかったが、これらの記録的な結果は、トップコンディションの希少な時計への関心、特にある落札者からの関心がこれまでになく高いことを示している。

オークションに出品された衝撃のロレックス
rolex 6270 diamond set baguette bezel
過去最高のものになった6270。

オークションはロレックスやパテックが中心である。過去3回のライブオークションの全ロットのうち、57%をこのふたつのブランドが占めていた(なおクリスティーズで開催した“アート・オブ・F.P.ジュルヌ”セールに出品された39本の時計は含んでいない)。そして今年はロレックスづくしとなった。

この記録的な結果よりも興味深いのは、(これらの時計を落札した)勝者の存在だ。それはロレックスである。ロレックスの代表者がこの週末中ずっとオークション会場にいて、記録的なミルガウス、JPS、6270のほか、少なくともほかに2ロット、計5ロットを落札したのである。その2本とは、57万1000スイスフラン(日本円で約8740万円)で落札したピンクゴールドの“ジャン=クロード・キリー” 6036と、17万7800スイスフラン(日本円で約2725万円)で落札したGMTマスター “キャプテン ウォーレン”である。

ミルガウス、JPS、6270、キリーはそのコンディションのよさから、そしてキャプテン ウォーレンはその来歴から、この5つのロットはすべて紛れもなく特別なものだった。キャプテン ウォーレンは1950年代のロレックス GMTマスターの広告に登場し、その後オリジナルオーナーの家族によってサザビーズに持ち込まれた個体である。ミルガウスは今まで見たもののなかでいちばん素敵だと、ほぼ全員が賛同していて大差をつけた。ケースはナイフのように鋭く光り、ハニカムダイヤルは元のままで、付属品もほとんど揃っている状態だ。

このモデルはあまり人気がなく、1019に取って代わられた1957年から1960年までしか生産されなかったため、ロレックスは6541を200本ほどしか生産しなかったとされている。確かにオリジナルのミルガウスはニッチな時計であり、おそらく今後もその位置付けは変わらないだろうが、しかしこのモデルを手にしたことで、ミルガウスを“聖杯”と呼んでいる人たちがいる理由がよくわかった。強い面取りを施した38mmの控えめなケースに、豊かなハニカムダイヤル、そして回転ベゼルを備えるなど、ヴィンテージロレックスに求められているすべてを備えているからだと。

また記録的なJPSは、最高品質のコンディションに対する需要が高いことを示している。この例は約250万ドルで落札されたが、アンティコルムに出品されていた別のJPSの例はあまりいい状態を保っておらず、販売には至らなかった。これまで以上にコンディションこそが真に重要なポイントなのだ。

最後に先週行われたプレビュー記事で記録的な6270を取り上げたが、繰り返しにはなるものの、この時計は史上最もクールな時計のひとつだ。何の変哲もないバルジューを搭載した手巻きクロノグラフに、このレベルのダイヤモンドをセッティングしただけ? 正気の沙汰とは思えない。またこの個体の金無垢ブレスレットには派手にパティーナもついている。

もちろん、ロレックスは博物館を持たないが(まだか?)、最近のオークションにおける活動は、ロレックスが自社の遺産や歴史に関心を持ち続けていることを物語っている(ロレックスは昨年の11月にも数ロット落札している)。そしてロレックスは新型デイトナを発表すると同時に、いくつかのデイトナをWatches & Wonders内に(歴代デイトナを振り返るスペースを)展示していた。このモデルには過去のデイトナへの明確なオマージュがいくつかある。ロレックスの公開入札は見ていてワクワクするものだった。ときにはオークショニアとブランドの代表者がアイコンタクトし、互いにうなずくだけで次の入札が入ったこともあった。それは控えめな行為だったことは確かだが、わかる人が見ればすぐにわかるものだった。

ただすべてのロレックスの時計がこれほど好調だったわけではない。一部から真偽を疑問視する声もあった、裏蓋にハンジャルの刻まれたゴールドの6269は、クリスティーズで110万スイスフラン(日本円で約1億6835万円)で落札され、指標を下回る結果に終わった。

しかし、ブランドそのものを頂点とする入札に後押しされ、ヴィンテージロレックス市場は好調を維持し続けている一方で、モダンウォッチは低迷を続けている(なかにはいまのセラミック製デイトナが5万ドル/日本円で約690万円 で売れているものもあるが、それでも納得のいかない結果もあった)。

ジュネーブで行われたオークションの全貌を紹介するフォトレポートなど、今後もオークションに関する情報をお届けしていく。

チューダーが2型のペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシングモデルを新発表。

チューダーが大きなニュースを届けてくれた。アメリカズカップのヨットレーシングチーム、アリンギ・レッドブル・レーシング(Alinghi Red Bull Racing)とのパートナーシップ締結を記念して、2種類のペラゴス FXDを発表したのだ。(ペラゴス FXDとしては)新しいクロノグラフに、両モデルともにカーボンコンポジット製ケースを採用。ペラゴス FXDの本来のミリタリー由来のテイストとは大きく変化しているため、詳しく説明しよう。

tudor fxd chronograph
新作は42mmの時刻表示のみのモデル(Ref.M25707KN)と、ペラゴス初となる43mmサイズのクロノグラフ(Ref.M25807KN)で展開。これらの新しいFXDはどちらもマットブルーダイヤルに赤いアクセント(レッドブルのイメージだ)を配している。またどちらもマットブラックのカーボンコンポジット製ケースに、1分刻みに塗布された60分目盛りのカウントダウンスケールを持つカーボンインサートが付いた、チタン製の双方向回転ベゼル(120クリック)を装備。

アリンギの両モデルともに、オリジナルのFXDと同じ、固定式のストラップバーを備えたフックアンドループ方式(面ファスナー)で開閉できる、ワンピースのブルーファブリックストラップをセット。時間表示のみのモデルは47万800円、クロノグラフは65万2300円(ともに税込)で販売される。

我々の考え
驚いたといっても、このFXDの進化はまったく予想外だった。カーボンケースだって? しかもクロノグラフ? これはペラゴスが発表されて以来、最も技術的に前進したペラゴスの進化を表すワイルドなムーブである。当然のことながら、僕はこの進化に大賛成だ。

tudor fxd chronograph
腕時計の世界は、長いあいだヨットレースに魅了されてきたが、その魅力によってアメリカズカップを競うさまざまなチームと協力して製造される、真に素晴らしい時計の誕生につながっている。チューダーは2022年にアリンギ・レッドブル・レーシングとのパートナーシップをスタートしている。それは、チームがレースで使用したボートから直接インスピレーションを得ることができるということで、ヨットレースに合うタフな時計が欲しい場合、このカーボンケースを持つFXDクロノグラフはその任務を遂行するのにうってつけだ。またこの素材がチューダー(またはほかの特定の姉妹ブランド)の量産用腕時計に採用されたのも、これが初めてである。

写真を見れば見るほど、カーボンケース特有のダークマットブラックに囲まれた、マットブルー文字盤のカッコよくもテクニカルな印象がどんどん好きになる。それとベゼルインサートの繊細なカーボン仕上げと並行した、チタン製プッシャー/リューズのコントラストも本当に素晴らしいと思う。重量の数値については情報を集めているので、できるだけ早くこの記事を更新するつもりである。

アリンギ・レッドブル・レーシングとの関係有無にかかわらず、この新しいFXDがペラゴスのなかで大人気になるのは目に見えている。また、サイズが大きくなったにもかかわらず(ただケース材料によってある程度諸々緩和されているはずだ)、クロノグラフはこの独特の風味を持つ新しいFXDペアで特に際立っているように感じられる。新作はペラゴスの血統を大きく進化させており、チューダーの真にモダンなスポーツウォッチの最先端を表現し続けている。

基本情報
ブランド: チューダー(Tudor)
モデル名: ペラゴス FXD アリンギ・レッドブル・レーシング エディション(Pelagos FXD Alinghi Red Bull Racing Edition)、ペラゴス FXD クロノ アリンギ・レッドブル・レーシング エディション(Pelagos FXD Chrono Alinghi Red Bull Racing Edition)
型番: M25707KN(3針)、M25807KN(クロノグラフ)

直径: 42mm(3針)、43mm(クロノグラフ)
厚さ: 12.75mm(3針)、13.6mm(クロノグラフ)
ケース素材: カーボンコンポジット(ステンレススティール製ミドルケースを装備)
文字盤: マットブルーに赤のアクセント
インデックス: アプライド
夜光: グレードX1スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 面ファスナー開閉式ストラップ(両モデルともに固定式バー付き)

tudor fxd chronograph
ムーブメント情報
キャリバー: MT5602(3針)、MT5813(クロノグラフ)
機能: 時・分・センターセコンド(3針)、時・分・スモールセコンド、日付表示、45分積算計、ランニングセコンドサブディスプレー(クロノグラフ)
パワーリザーブ: ともに約70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
クロノメーター: あり、COSC認定

シチズンの“フジツボ”が、ブラックのスーパーチタニウムで復活。

特定のブランドを買い求める際、その製品ラインのなかでもさほど象徴的でないものを手に取るような人はいるだろうか? 昨年、ジェームズ・ステイシー(James Stacey)は、初期のプロマスター メカニカル “フジツボ”ダイバー(通称“チャレンジ”ダイバー)が、少なくとも表面上において、シチズンのラインナップのなかでも極めて典型的なダイバーズウォッチのひとつであることを率直に指摘した。シチズンといえば、直径46mmのオルカ、同じく46mmのエコ・ドライブ プロマスター ダイバーズ、そして直径48mmのエコジラなど、巨大で人目を引く時計が思い浮かぶ。そして、これらはまさにブランドにとってアイコン的存在だ。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
「シチズンというブランドを愛しているからこそ、シチズンが欲しいのだ」と自分に言い聞かせ、その時計のなかでもっとも“スタンダード”なものを選ぶ人に私は拍手を送りたい。もしかしたら、あなたはネオヴィンテージのディープなモデルのほうが好きかもしれないし、伝統主義者であるかもしれない。しかし、もしあなたがシチズンのなかでも、現代的なカルトクラシックモデル(しかも大振りでワイルドな)のなかから“フジツボ”に手を伸ばしているのだとしたら、それはおそらくシチズン愛好家のうちでは少数派だろう。だが、私はそのことについてあなたを責めはしない。オリジナルのスーパーチタニウム製プロマスター メカニカルダイバー(そして私が所有するブルー文字盤モデル)は、同僚のジェームズの言葉を借りれば“別格”だ。

 そう、そしてシチズンはスーパーチタニウム製プロマスター メカニカルダイバーにデュラテクトDLCコーティングを施した新モデルを発表した。今作は“別格”か、それ以上のものだ。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
 新しいプロマスター メカニカルダイバーシリーズは、シチズンのヴィンテージ“チャレンジダイバー”を完璧に再現したものではなく、同作を確固たるベースとして作られたものだ。だが、1960年代や1970年代のヴィンテージダイバーズファンならば、どこからインスピレーションを得ていかなどはすぐにわかるだろう。オリジナルモデルを見たときに私が最初に感じたのは、セイコーの62MASに似ているなということだったが、これはその当時の流行だったからにほかならない。

 もちろん、この時計はヴィンテージの時代からは少し強化されており、200m防水と少し大きめの41mmケース(ヴィンテージの40mmから1mmアップ)を備えている。20mmのラグ幅は私がこの手のダイバーズに常に求めている基準であり、夏のあいだはNATOに付け替えれば気軽に装着が可能だ。それにしても、なぜ私はブレスレットをはずそうと思うのだろう?

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
ブラックコーティングの腕時計を理解しよう

ジェフ・スタインは2021年の記事で、ホイヤーのダークロードとそのほかのコーティングウォッチを論評している。

 ここで話を単純化しすぎないようにしたいのだが、私がこの時計を好きな理由の大部分は、ケース、ブレスレット、文字盤のすべてが一体となった全体的な雰囲気(子供っぽい表現だが)にある。私は“コーティング”された時計が(おそらく非論理的なまでに)大好きだ。PVDであれ、DLCであれ、そのほかのコーティングであれ、私の関心を引きつけてやまない。もし資金が無限にあったら、ヴィンテージのあらゆるコーティングウォッチのコレクションを作るだろう。

 シチズンは、ケースとブレスレットにデュラテクトDLCコーティング(多くの小売業者のサイトに掲載されているようなPVDコーティングではない)を採用している。ブランドはこれをブラックコーティングと呼んでいるが、ポルシェデザインのクロノグラフ1やヴィンテージホイヤーの “ダークロード”のような時計に見られる本物のマットブラックとは異なり、どちらかというとダークグレーのように見える。このカラーは光の加減で変化し、ケースのファセットやフォルムにコントラストがあまり見られない、多くのマットコーティングの時計との違いは興味深いと思った。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
 文字盤はダークグレーの外観に倣うようなフュメダイヤル。モーザーレベルのフュメではないが、17万500円(税込)でそれを期待してはいけない。シチズンのオンライン画像では、ダークな外縁から内側のグレー部分にかけてのグラデーションの度合いがよくわからないが、実際に見ると劇的な効果を生み出している。この写真からは、光や周囲の環境から時計が受ける色によって、グリーンからマゼンダに近いトーンに変化している様子がわかるだろう(光やカラーバランス、グレーの色調を頻繁に扱うフォトグラファーにとっては驚くべきことではないかもしれないが)。

 デイト窓の有無は常に議論の的になる。ここで「水中で日付を知る必要がある場合、どれだけ困ることか!」というジョークが入るわけだが、私には少しも気にならなかった。デイト窓と文字盤の色を合わせれば、より統一感のあるデザインになるのは明らかだ。だが、このようなグラデーション文字盤の場合、色を合わせるのは難しいだろう。今作においては文字盤の周りにインデックスがあるため、白のコントラストはそれほど強く見えない。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
 ケースのコーティングは言うまでもなく、シチズンによるスーパーチタニウムのケースはかなり素晴らしい。このモデルでは、ジェームズがレビューで語ったものと同じ幅41mm、厚さ12.3mmのケース寸法を踏襲している。同じドーム型ではめ込み式のクリスタルや、シチズン独自のCal.9051(秒針ハック機能付きで2万8800振動/時の自動巻きムーブメント。手巻き機能、日付表示、42時間パワーリザーブを備え、耐磁性ヒゲゼンマイを採用)の搭載も同様だ。確かにムーブメントは手首に装着すると、ちょっと、まあ、“価格相応だな”と感じるかもしれない。軽量なケースは、時折荒々しく回り、わずかにルーズな感触のローター内部を際立たせているようだ。少なくとも、これが動き続ける限りは。

 しかし、ここではケース自体の素材が鍵となる。時計業界や時計コレクターのコミュニティでいろいろな人と話していると、たとえその100倍の値段の時計を持っていたとしてもほとんどの人がシチズンをいくつかコレクションに加えているようであり、そのなかでもスーパーチタニウムのモデルは傑出している。ある人はこの素材を「ほとんど無敵」だと言った。それは少し大げさな表現であるにせよ、どれだけ頑丈なのかを物語っている。まあ、オリジナルのヴィンテージチャレンジダイバーが、フジツボまみれになってオーストラリアのビーチに打ち上げられるまでの数年間を海で過ごしたことから“フジツボ”と呼ばれるようになったことを考えると、それもあながち間違いではないのかもしれない。この時計も、まさにそうなりそうな予感がしている。

 より手ごろな価格で時計を提供するためには、どうしても譲歩しなければならないことがある。私は最近、このシチズンのブルーモデルをチューダーのペラゴス 39と並べてみたことで、シチズンのブレスレットが少し硬いことに気づかされた。手首に巻いている分にはほとんど気にならない。だが、時計をはずしたときには、その厚みと、ラグの最初のリンクと残りのブレスレット間のたわみが少ないことがわかる。時間が経てばこれがゆるんでくるのかどうか、気になるところだ。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
 この時計が本格的なダイバーズウォッチであり、その機能を十分に備えていることは強調しておきたい。ねじ込み式リューズ、ダイブベゼル、そしてクラスプのスライドによるダイバーズエクステンションを駆使することで、この時計はその実力を十分に発揮することができる。最近、バハマの温かい海で何度かダイビングをした。時計をレビューするには過酷な環境だ。

 水中で潜水時間を計測するためにベゼルを握ろうとする私のやせ細った指でも、ベゼルはきちんと回転する。ダイブコンピューターの代わりにはならないが、あなたがHODINKEEの読者なら、手首に昔ながらの時計があるに越したことはない。ナッソー沖にあるジェームズ・ボンドの映画で使用された難破船付近は40フィートと比較的浅かったのだが、翌日潜った難破船“レイ・オブ・ホープ号(Ray of Hope)”付近は60フィートと少し深かった。だが、文字盤が暗いので針とインデックスは見やすく、コントラストが効いている。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
ジェームズ・ボンドの難破船は、もはや映画『007/サンダーボール作戦(原題:Thunderball)』のためにグラスファイバーで作られたバルカン爆撃機の模型の面影を残していない。代わりに、サンゴで覆われた水中ジャングルジムのように見える。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
難破船“レイ・オブ・ホープ号”を通過。

 これは、この黒い時計のなかでひときわ目立つ夜光によるところが大きい。とはいえ、高価なダイバーズウォッチに見られるような急速な蓄光はできない(ロレックスのように一晩中ベッドサイドで光っているような時計とは違い、長持ちもしない)。だが、この比較的浅いダイビングにおいて、ボートに乗って太陽の下で1時間充電した後に確実に仕事をこなしてくれた。

Citizen Promaster Dive Automatic in Black Super Titanium
 ブラックの新作“フジツボ”で数日間ダイビングをしたのちに私が発見した最高のディテールのひとつが、使い込んだ後のユニークな外観だ。コーティングされたケースにありがちなことだが、この時計も傷などではなく、海水のしぶきによる水染みやダイビングを終えてボートに乗ったときに付着した水滴の跡で、すぐに風格が漂うようになった。これらの模様は少しすると拭き取れてしまうが、なぜそんなことをするのか? この跡が時計をより個性的なものにしているのに。

オメガ シーマスター ダイバー 300M “パリ 2024” スペシャルエディションが

パリ五輪は1年後かもしれないが、オメガはすでに金メダル獲得を目指している。

オメガによると、今のところパリにあるオメガブティックでのみ購入できるという。この新しいスペシャルエディションはスタンダードなシーマスター 300Mでありながら、ムーンシャイン™ゴールドのベゼルと、来たる2024年の大会に敬意を払ったいくつかのディテールを備えている。

オメガ シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM パリ 2024
 18Kのムーンシャイン™ゴールドベゼルは、パリスペシャルエディションにオメガが加えた最大の変更点だ。レーザー加工で浮き彫りにされたダイビングスケール、12時位置にはスーパールミノバの夜光を備えている。裏蓋にはムーンシャイン™ゴールドで象嵌されたパリ 2024のメダリオンと、ミラーポリッシュ&フロスト加工の“Paris 2024”の文字および五輪の刻印を配している。パリ 2024ロゴのフォントも注目のポイントで、オメガはダイヤル6時位置にある、日付表示ディスクにも同じフォントを使用している。文字盤自体はホワイトセラミック製のマット仕上げに波模様を描いているほか、センターセコンド針には通常の夜光マーカーの代わりに小さなパリ 2024エンブレムを取り付けている。

オメガ シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM パリ 2024
 そのほかのスペックは最新のシーマスター 300Mと同様だ。つまりオメガのMETAS認証を受けたマスタークロノメーターCal.8800を搭載し、約55時間のパワーリザーブを確保しているということである。ケースの直径は42mm、厚さ13.7mmで、ステンレス製のブレスレットにはオメガの新しいクイックチェンジシステムが採用されている。メーカー希望小売価格は税込で124万3000円である(なおスタンダードなSS製シーマスター ダイバー 300Mは税込84万7000円)。オメガによると、これは2024年パリ大会の特別版だが、シリアルナンバーの刻印や数量を絞ることはないという。

我々の考え
オメガ シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM パリ 2024の文字盤
オメガがオリンピックの公式タイムキーパーを担当するのは、2024年のオリンピックで31回目となるが、ブランドはこの記録を1932年から保持している。だから少なくともパリ大会を記念した特別版がひとつかふたつは出るだろうと予想はしていた。スペシャルエディションに対する思いはさておき、2024年オリンピックの丸々1年前に記念式典を始めるなんてさすがに早すぎると思うかもしれないが、これは大変見栄えのするシーマスター プロフェッショナルモデルだ。現在のカタログにゴールドベゼルを持つSS製シーマスター 300Mはないから、この特別版ではオメガが少し違うことをしているのがわかる。オメガのムーンシャイン™ゴールドの落ち着いたトーンはSSのケースやブレスレットと相性がいいようだ。

オメガ シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM パリ 2024とセットになったボックス
 124万3000円(税込)という価格は、一般的なSS製シーマスターに比べればかなりのプレミアム値だが、それでもその設定に違和感はない(例えばSS製のサブよりもまだ安い)。オメガは“今のところ”パリでのみ販売すると述べている。しかしこれがより広い地域で購入できるようになるか、少なくともオメガが新しい方法でこのゴールド合金を取り入れるために多くの努力を積み重ねていても、私はなんら気にしない。

基本情報
ブランド: オメガ(Omega)
モデル名: シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM パリ 2024(Seamaster Diver 300m Co-Axial Master Chronometer 42mm Paris 2024)
型番: 522.21.42.20.04.001

直径: 42mm
厚さ: 13.7mm
ケース素材: ステンレススティール、ムーンシャイン™ゴールドベゼル
文字盤: ホワイトセラミック
インデックス: アプライド
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 300m
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット、クイックチェンジシステム
総重量: 204g

オメガ シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM パリ 2024の裏蓋
ムーブメント情報
キャリバー: 8800
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示
直径: 26mm
パワーリザーブ: 約55時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200振動/時
石数: 35
クロノメーター: METAS認定のマスター クロノメーター
追加情報: コーアクシャル脱進機、シリコン製ヒゲゼンマイ

価格 & 発売時期
価格: 124万3000円(税込)
発売時期: 2023年7月
限定: オメガパリブティック限定(いまのところ)

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