セイコーとのコラボレーションウォッチを数多く手掛け、また日常的にも同社の時計をいくつも着用しています。

史上最高額の10年総額7億ドル(約1015億円)でドジャース入りした大谷選手は、先月末、27日(日本時間28日)にニューヨークで開催された全米野球記者協会(BBWAA)ニューヨーク支部主催の「アワードディナー」に登場。ディナーのドレスコードはブラックタイということで、大谷選手は「BOSS」のアーカイブからネイビーのタキシードジャケットを着こなしていました。

大谷選手は普段通訳の水原一平氏を通して発言することが多いですが、この日のMVP授賞式では日本語なしで、2分6秒の全英語スピーチを披露し、出席した関係者やファンたち約600人から拍手喝采を浴びました。僕は大谷翔平選手のスピーチを見ながら常に彼の手首に注目していました(完全に職業病ですね)。そこにあったのはブラックダイヤルにブラックのレザーストラップの腕時計。キラリと光る感じからインデックスはゴールド色に見えました。

僕は気になってすぐにGetty Imagesにアクセスし、時計がよく写っている写真を探しました。するとすぐにニューヨーク・ヒルトン・ミッドタウンでポートレート撮影に応じる大谷選手の写真を見つけました。

もっとクローズアップして見てみよう。

この写真を見てすぐにどのモデルかがわかりました。昨年グランドセイコーから日本製腕時計の110周年を記念して発表されたSBGW295です。本作は、1960年に発売された初代グランドセイコー通称“ファースト”のオリジナルデザインを35mmから38mmにサイズアップして現代的に復活させたSBGW259を始めとするモデルの限定バリエーションで500本が作られました。

筆者が撮影したグランドセイコー SBGW295。

ケースにはグランドセイコーが得意とするザラツ研磨が施されたブリリアントハードチタンが採用され、ダイヤルは漆黒の漆と蒔絵によるGrand Seikoのロゴと12ヵ所のインデックスが特徴です。高蒔絵は金沢の漆芸家・田村一舟(たむらいっしゅう)氏が純金を用いてひとつひとつ手作業で描いています。

またストラップは、かつて武士の鎧兜を編み上げたのと同じ手法で裁断された、牛革と糸を平織りして耐久性を高めた生地、鎧織(よろいおり)が採用されており、日本の技術や伝統が細部にまでこだわり抜かれた1本です。

タキシードにドレスウォッチをあわせるのは王道ですが、僕はこれまでグランドセイコーをあわせるセレブリティはあまり見かけたことがありませんでした。大谷選手のシックなタキシードにこの漆黒のグランドセイコーファーストは本当にクールな着こなしですね。

大谷選手といえば、令和6年能登半島地震による被災地支援のため、ドジャースと共同で約1億4500万円の寄付を行いました。これは僕が深読みしすぎているだけかもしれませんが、金沢の職人が手掛けたモデルをつけているのはエールを送る意味もあるのかも…しれませんね。

オーデマ ピゲの研究開発プラットフォームであった“ユニヴェルセル”が登場したが、

オーデマ ピゲが17もの複雑機構を持つ驚異的なCODE 11.59 “ユニヴェルセル”をリリースしたのは、ブランドにとって大きな瞬間であった。この時計はオーデマ ピゲがコンプリケーションの分野で最も注目すべきエキスパートのひとりであると、その地位を確固たるものにした(というより世界に知らしめた)だけでなく、CODE 11.59に“研究開発”というラベルももたらした。発売当時はインターネットでかなり酷評されていたコレクション(ただし、CODEは徐々にファンを獲得していった)にとっては、画期的な出来事である。しかし今回、CODEは独立したシンプルな時計として成長しただけでなく、オーデマ ピゲが手がけた最も複雑な作品のひとつがこの時計であることも示した。

 しかしここで問題なのは、それはロイヤル オーク コンセプトのテリトリーだと思っていたことだ。2015年まで遡っても、ロイヤル オーク コンセプトのケース形状はスーパーソヌリの技術革新とともに、オリジナルRDウォッチのベースモデルであった。実際、同社はスーパーソヌリの品質を証明したいあまり、プロトタイプをつくる際、最悪の響きを奏でるプラチナを素材に選んだ。私が扱った時計のなかで最も重い時計のひとつであることに加え、私が聞いたなかで最も大きな音のするリピーターのひとつでもある。信じられない音が響き、私は夢中になった。あのフォームファクターでコンセプトモデルをテストするのは完全に理にかなっていたが、あれが最後のRDコンセプトだった。それはブランドの研究開発用プラットフォームであり、ほかのどこにもない素材や、ムーブメントの実験を可能にするための完璧な大きさだった(少なくとも今はまだ)。しかしRD#4が登場したとき、私は突然、5年後にコンセプトが廃止される世界が見えたのだ。私の当面の疑問は、これでロイヤル オーク コンセプトは終わりなのかということだった。

The AP Royal Oak Concept RD#1 Supersonnerie Prototype
AP ロイヤル オーク コンセプト RD#1 スーパーソヌリ プロトタイプ 26576。プラチナケースに収められたこのモデルは、リピーターだけでなくトゥールビヨンとクロノグラフも搭載している。この時計は2015年に56万1600スイスフラン(当時の相場で約7070万円)で販売されたが、現在の流通市場では、そのほぼ半額で入手できる。

 私がロイヤル オーク コンセプトを好きになったのは、数年前にジョン・メイヤー(John Mayer)とその前にはファレル(Pharrell)の手首に巻かれているのを見たのがきっかけだった。私はすぐにリシャール・ミルが長年やってきたこと、つまり素材の実験と技術革新に重きを置いた、大きくて大胆な時計のより洗練されたバージョンだと考えた。時計作家の言葉を借りれば、44mm×16mm(またはそれくらい)の巨大なサイズよりも小さいが、それとは関係なく、手首での存在感は典型的なロックスターの時計だ。何度試着しても絶対に似合わないと思っているが、それでも大好きなのだ。ほかの誰かになることを想像させてくれる時計である。

 この50年間、オーデマ ピゲは、特異なデザインや形というよりも複雑な時計製造によって定義されたブランドであると強く主張できる。特に1978年は、その時代で最も薄い自動巻きパーペチュアルカレンダー、Cal.2120/2800のリリースにより、ブランドにとって信じられないほど重要な瞬間を迎えた。その後18年のあいだに、オーデマ ピゲはこの厚さ3.95mmのパーペチュアルカレンダーを搭載した6508本の時計と、791本のオープンワークモデルを製造することになる。そのなかで最も象徴的なのが、39mmのジャンボケースを備えた当時のロイヤル オークだ。パテック フィリップが創業150周年を記念して発表したCal.89から始まり、IWCの“イル・デストリエロ・スカフージア”やジェラルド・ジェンタの“グランド・エ・プティット・ソヌリ・パーペチュアル・カレンダー”といったリリースが続いたのは、ハイコンプリケーションの軍備拡張競争によって区切られた時代だったからである。しかし、ロイヤル オークのパーペチュアルカレンダーが最初の、そして紛れもなく最も象徴的なモデルのひとつであり、しばらくのあいだその状態は続いた。

コンセプトの誕生
 ときは流れて2002年、オーデマ ピゲはロイヤル オークの誕生30周年を記念して、コンセプトウォッチ1(CW 1)を発表し、象徴的なフォームファクターの未来を想像する手段とした。コンセプトは、クルマメーカーが最先端の開発をアピールして業界の未来を示すために頻繁に発売するコンセプトカーに触発されたため、その名前が付けられた。また、超薄型の2120ムーブメントとは信じられないほどかけ離れてもいた。

The RD#1 and CW1
左がオーデマ ピゲのRD#1、右がオーデマ ピゲのアーカイブにあるオリジナルのコンセプトウォッチ1(CW 1)、シリアルは0/150番。

 ロイヤル オーク コンセプトがブランドを象徴するアイコンとして捉えられていないのは不思議だ。その美学は当時としては大胆であった。洗練されて未来的で大振りなのだ。オーデマ ピゲは私に、これが真に21世紀に属する最初の時計と考えられると言った。実用主義的な観点から見ると、デザイナーに与えられた当初の使命は、可能な限りの技術革新を1本の時計に集約し、さらにコンクリートの壁に投げつけても壊れないようにしなければならなかったという。

 そのためケースにはコバルト、クロム、タングステン、シリコン、鉄からなる革新的な合金、アラクライト602が採用された。これはスティールよりも強度に優れていたが、それ以降、ほかの時計に使用されることはなかった。ベゼルはポリッシュされたチタン製だ。ムーブメントプレート、ブリッジ、トゥールビヨンケージの耐衝撃サポートシステムが鍛造カーボン製であることを強調しつつ、ムーブメント自体が文字盤として機能していた。またダイナモグラフ(ゼンマイのトルク量を示す)、ファンクションセレクター、香箱の回転数を示す線形インジケーターなどの新機能も搭載された。さらにストラップにはケブラー繊維で作られたファブリックストラップがセットされていた。

 オーデマ ピゲの開発ディレクター、ルーカス・ラギ(Lucas Raggi)氏は、私が昨年このテーマについて話をしたとき、「コンセプトは自由と極端さを表現しています」と話した。「私たちはこれを機に機構、素材、人間工学の面で探求を進めるとともに、文字盤を持たない最初の時計のひとつにしました」

 その時計はオーデマ ピゲにとって革命的なものだった。しかしロイヤル オーク コンセプトと、そのちょうど1年前にリリースされたリシャール・ミルのRM-001の類似性もすぐに見て取れるだろう。偶然ではない。その頃には、オーデマ ピゲはすでにRM-001の開発に影響力を与えていた、有名なルノー&パピの過半数の投資家になっており、そのパートナーシップ関係は年々深まっている。トゥールビヨンが信じられないほど壊れやすい調整機構と考えられていた当時、リシャール・ミルはトゥールビヨンにほぼ衝撃を与えない、目を引くデザイン要素に変えた。1年後、オーデマ ピゲはそれを次のレベルへと引き上げた。

2008年のAP ロイヤルオーク コンセプト カーボン。

 CW 1とRD#1までの13年間、ブランドはコンセプトで革新を続けた。2008年に発表されたコンセプト カーボンは、ブランドが鍛造カーボン、チタン、セラミックに挑戦する機会となり、将来のオールセラミックモデルの土台を作ったと言っても過言ではない。この時計は約237時間のパワーリザーブを提供するツインバレル搭載のCal.2895で、ファンクションセレクター、珍しいリニアカウンターを備えたクロノグラフを特徴とする。6時位置のファンクションセレクターでは、巻き上げ(Rはremontoire)、ニュートラル(Nはneutre)、セッティング(Hはheures)の状態を示す。2011年にリリースされたコンセプト GMTには、約237時間パワーリザーブを持つトゥールビヨンを搭載。クロノグラフを廃止し、おそらくコンセプトのリリースのなかで最もシンプルかつ控えめなGMT機能を追加した。本作は実用的で機能的なリリースであり、何よりも注目すべきは、ムーブメントを構築する文字盤側のデザインコードが、現在でも私たちが目にするものに近いものであったことだ。

 ラギ氏は少し笑いながら、「コンセプトはかなり分厚いのでとても便利なんです」と語った。「新しいメカニズムを試したいとき、それを実行するためのスペースが少し必要になることがあります。これらすべての理由から、私たちはここ数年、このコンセプトを使って技術的な時計製造を探求してきました」

2011 Concept GMT
2011年に登場したロイヤル オーク コンセプト GMT。

AP Schumacher Lap Timer
 2015年に発表されたコンセプト ラップタイマー ミハエル・シューマッハモデルは、21世紀(あるいは20世紀)に入ってから、オーデマ ピゲがクロノグラフ開発に本格的に取り組んだ最初のモデルだった。オーデマ ピゲの自社製Cal.2923は、3つのプッシャーを介して中央の2本の針を単独で操作できる単一クロノグラフであった。ふたつのスタンダードなプッシャーはほかのクロノグラフと同様の操作だが、9時位置にある3つ目のプッシャーは、クロノグラフ秒針の一方を停止させ、もう一方を帰零させるという、ラップタイムを計れるものだった。のちに誕生したMB&FのLM シーケンシャルとの類似性は一目瞭然だが、コンセプト ラップタイマーはより伝統的なレイアウトですべてを実現させたのだ。

AP Concept Watches
2008年のAP ロイヤル オーク コンセプト カーボン、ロイヤル オーク コンセプト フライングトゥールビヨン ブラックパンサー、そして2011年のロイヤル オーク コンセプト GMT。

 その後マーベルが登場した。まあそんなところだ。コンセプト ブラックパンサーの発表はウォッチコミュニティにさまざまな軋轢をもたらしたが、コンセプトがオーデマ ピゲのラインナップで果たす役割に大きな変化をもたらしたのは、実はこれが初めてではない。2018年、オーデマ ピゲは初のウィメンズコンセプトモデルを投入し、それに伴いブランド初のフライングトゥールビヨンを搭載したCal.2951を発表した。しかし460個のバゲットまたはブリリアントカットダイヤモンドがセットされた38.5mmのホワイトゴールドケースというビジュアル的な観点により、技術的な成果はほとんど後回しにされてしまう。何年にもわたり、金無垢や貴石を用いたさまざまなバリエーションのレディスコンセプトが発表されたが、そのすべてに同じフライングトゥールビヨンを搭載。本ラインは技術的なものと同様に、デザイン的プラットフォームとしても確固たる地位を築いたのだ。そこへオートクチュールのデザイナーであるタマラ・ラルフ(Tamara Ralph)氏が手がけたフロステッドローズゴールドのコンセプト38.5mmがリリース。これ自体は、2020年に発表された下の写真のモデルにちなんだものである。

Royal Oak Concept Frosted
Photo: courtesy of Audemars Piguet

 時計業界では、マーベルのリリースがうんざりするほど議論されてきた。個人的にはブラックパンサーは思っていた以上に感動したものだが、ただ今でも別に好きではない。文字盤にあしらわれたフィギュアの目は、まるで本物かのように生き生きとしている。しかし本モデルに搭載された真の複雑機構は、レディスのコンセプトラインに搭載されたのと同じフライングトゥールビヨンのみであり、時計製造における革新的な技術はなかった。

 コンセプトウォッチのもうひとつの特徴は、特別に多くのものがリリースされなかったことだ。例えばCW 1は少なくとも5年間生産されたが、連続生産されたのはわずか140本であり、そのほかに14本が、トップクライアントのためにユニークピースとしてつくられた。またミハエル・シューマッハのコンセプトは、彼のF1キャリアでのポイントフィニッシュごとに1ピースずつ生産され、計221本のピースが誕生した。最近のリリースであるタマラ・ラルフ氏とのコンセプトはわずか102本のみだ。ほかの多くは正式な限定版ではなかったが、生産数が限られていたことは確かである。

 昨年ラギ氏と話したとき、彼は新しい“ユニヴェルセル”をリリースするためにラウンドケースが必要であると早い段階から判明していたが、2016年に開発が始まった当時、CODE 11.59はまだ存在すらしていなかったと話してくれた。それがこの記念碑的偉業のために、CODEが生まれたことを意味するのかどうかはわからないが、最初からこの時計はロイヤル オーク コンセプトではない運命にあったのだ。ということは、コレクションはもうこれで終わりということなのだろうか?

AP Concept Black Panther
過去から学ぶ
 昨年、私はオーデマ ピゲのアーカイブを見学し、ブランドの歴史からさまざまな時計まで扱うことができた。私が見ることができた最も古い時計は1893年製のものだった。ブランドの象徴である“ユニヴェルセル”よりも6年前につくられたという、信じられないほど複雑な懐中時計であり、グランソヌリ、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、スプリットセコンド、ムーンフェイズ、そして機能を誤って起動しないようにロックする独創的な“セーフティベゼル”を搭載していた。この時計はおそらく、ルイ=エリゼ・ピゲ(Louis-elysée Piguet)社のエボーシュをベースにオーデマ ピゲが製造したもので、デュルシュタイン社、ドレスデン&グラスヒュッテ社、グラスヒュッテ・ウーレンファブリーク・ユニオン社のサインが入っていた。

 1893年から1930年代まで、ハンガリーの司教カーリー・エマニュエル・ド・チャスキー(Hungarian bishop Károly Emmánuel de Csáky)が所有していたが、チャスキーの死を機にのちのローマ教皇ピウス11世であるアキッレ・ラッティ(Achille Ratti)に贈られた。教皇はその後、時計を主治医のアマンティ・ミラーニ(Amanti Milani)医師に渡す。この時計は2013年に、オーデマ ピゲがクリスティーズから43万7000スイスフラン(当時の相場で約4603万円)で落札した。プレユニヴェルセルと呼ばれるそれは、とんでもないレベルの懐中時計であり、私のような歴史マニアからするとこの時計に触れること自体とてもうれしかった(というわけで、以下、追加の写真を載せることをお許しいただきたい)。

フィリップ・トレダノによる時計収集の冒険譚。

フィリップ・トレダノ(Phillip Toledano)はアーティストであり、自動車愛好家でもあるが、最近になって時計収集の沼に頭から飛び込んだ。

私は病的なまでの逆張り主義者である。だから私はいつもヴィンテージカーとヴィンテージウォッチの関係をエルヴィスも唸り口をつぐむ、軽蔑の目で見てきた。

 この否定は昨年10月まで続いていたが、ある日曜日の朝、目を覚ましてから6時間のあいだにTalking Watchesを全部消化してしまっていた。魅力的な新しい語彙に酔いしれ、それと同時に困惑した。夜光、トゥールビヨン(小鱈の親戚?)、そして私の大好きなトロピカル…“色あせた”というありふれたワードを、なんと詩的に言い換えているのだろう。まるで舌の動きひとつで、中古車が“ジェントリープレオウンド”に変わるかのように。

 何がこの時計熱の引き金になったのかわからない。それは長いあいだ眠っていた欲望だったのだろうか、私のもっとうるさくてオイリーな、クルマへの衝動に抑圧されていたのだろうか? 原因が何であれ、私はひどく悩まされた。

 今、私は何の因果かここでHODINKEEの原稿を書いている。

 はっきりと言おう。私は時計学について知識がない。しかし重要なのは、私は熱狂的な時計マニアだということだ。今回はそんな私の旅にお付き合いいただきたい。私がまるで休暇中に酔っ払った船乗りのように、時計から時計へと移り変わって大失敗する様子を見て欲しい。その間みなさんは、きっと頭を抱えることになるだろう。

 クルマ難民の私がすぐに気づいたことをいくつか説明させて欲しい。ヴィンテージカーを購入する場合、もちろん難航する可能性はあるものの、たいていはかなり簡単なことをしている。シャシーナンバー(クルマにおける生産工場での通し番号)は一致しているか? ある1973年型フェラーリには、もともとポップアップ式のDVDプレーヤーが搭載していたのか? これは本当の話だ。誰かが錆びたボディパネルを平らなビール缶に取り替えたのか? これも真実。フェラーリ V12は4気筒のフィエロ製ランプに交換されているか? まあこれは私の作り話だ。

phil toledano watches
フィルの現在のコレクションからいくつかピックアップ。

 しかし時計の場合、常にウォッチポルカリプス(社会的混乱と時計を合わせた造語)の瀬戸際に立たされているようだ。夜光は取り付けなおしたか? リダイヤルか? そうだとしたら、いったいどうやって見分けるのか? それは純正のリューズか? 正しいベゼルか? そうでない場合、どこで見つけられるのか? “halfwit(半端者)”と名前がエンボス加工されたボロボロのアメックスカードを頼りに、数えきれないほどの困難や危険が無限に降り注いでくる。

 私が最初に行ったのは、ロレックスのオイスターブレスレットをeBayで購入したことだ。みなさんが私にあきれている様子が目に浮かぶ。もちろん、それらはすべて災害レベルの時計であった。ただヒンデンブルク級の災害ではなく、他人のせいにしようとしたちょっとした接触事故のようなものだ。私はすぐにダンジョンズ&ドラゴンズレベルの知識を持ったロレックスのアドバイザーが必要だと気づいた。メーターファースト、コメックスダイヤル、そして難解な魔法のルーン文字など、ロレックスの世界に足を踏み入れるために必要な複雑な技術や知識を解読できる人が。安全策を取ろうと、私は100%の支持率を得ていた出品者から素敵なエクスプローラーIIを購入した。到着して修理に出したとき、内部は、野生動物がなかに閉じ込められて抜け出そうとして爪を立てるかのように、まったく開かなかった。そう、文字盤がムーブメントに接着されていたのだ。

 よくやったトレダノ。本当によくやった。

 少しお金を稼ぐようになると、すぐに富裕層からファックスが届くようになった。その紙切れには買うべきもののリストが書かれていた。フェラーリ458(もちろんレッド/ベージュ)。ロレックス デイトナ。イースト・ハンプトンの家。純金製のトイレ。誤解しないでいただきたいのは、それらが悪いものというわけではないが、完璧な逆張り主義者としては、それと違うものを所有したかったのだ(私のとんでもなく格好よくてバカげたクルマについて聞いてくれれば、何を言いたいかわかるだろう)。自分が持っているものには、一般的なセンスのよし悪しよりも自分らしさを反映させたいのだ。その“異なるもの”は高価である必要はないが、珍しかったりおもしろかったり、また美しいものでなければならない。あるいはその3つすべてか。

 ということで、今週はここまでとする。願わくばあなたが睡眠障害を引き起こさないことを願うが、きっともっと欲しいと懇願するだろう(あるいは私に怒りの手紙を書くはず)。次のコラムでは、ロレックスに対する議論のあとに何が起こったのか、そして私が購入した時計のなかで希少で美しいと思ったものの、そのほとんどは結局どちらでもなかったものについてお話ししよう。

フォーメックスはブランド創業25周年を記念してエッセンス セラミカ スケルトン COSCを発表した。

フォーメックスは長らく“マイクロブランド”という括りで語られてきたが、同社がスイスの高級時計業界の多くに部品を供給する姉妹会社デクセル(Dexel)と関係していることから、私としてはその呼び方に少々違和感を覚える。デクセルの強みのひとつがセラミック製造であり、実際に多くの高級ブランドのセラミック製ケースやブレスレットを手がけている(公表されているものもあれば、されていないものもあるが)。このノウハウを活かし、フォーメックスはオールブラックのセラミックウォッチとなるエッセンス セラミカを送り出した。

 フォーメックスのCEOであるラファエル・グラニート(Raphael Granito)氏が先週HODINKEE編集部を訪れた際に語ってくれたところによると、この価格帯の多くのセラミック製ウォッチは全面ポリッシュまたは全面サンドブラスト仕上げのいずれかに分類されるという。ポリッシュとブラッシュド仕上げでコントラストを出すといった、複数の仕上げを施すのは価格的に不可能に近いというのが通説だ。これが、1万ドル以下のセラミックウォッチで複雑な仕上げがほとんど見られない理由だろう。そこで今年フォーメックスはその常識に挑戦し、エッセンス セラミック スケルトン COSCを税抜4400ドル(日本円で約66万円)以下でリリースした。

 エッセンス セラミカの構造は基本的にスティールバージョンと変わらず、素材だけが新しくなっている。ケース径は41mm、厚さは11.2mmで、ケースの重心は低く手首に沿うように収まる。また、ケース径に対してラグ・トゥ・ラグが46.2mmと短いため、数値以上にコンパクトに感じられる。ケースには特許取得済みでブランド独自のサスペンションシステムが採用されている。これは外装ケースが中央のダイヤルとムーブメント(チタン製コンテナに収められている)を4本の六角ビスで連結し、サスペンション構造で中身を保持するというものだ。この機構は衝撃を和らげる目的で設計されているが、装着時にしなやかに動き、独特で時にクセになる装着感をもたらす。ラファエル氏によれば、このシステムをセラミック特有の構造的性質に対応させるために再設計が必要だったという。

 フルセラミック製のブレスレットには、ケースと同様のブラッシュド仕上げとダイヤモンドポリッシュの面取りが施されている。そして注目すべきはクラスプだ。金属パーツを一切使用せず、世界初となるセラミック製マイクロアジャスト機構を搭載している。クラスプは約1.5mm単位で最大5mmの調整が可能。ブレスレットを内側に押し込むことでラチェットが締まり、外側または内側のボタンを押すと緩めることができる。さらに、エンドリンクの裏側にはセラミック製のクイックチェンジトリガーも備わっている。

 エッセンス セラミカは全4色展開、各88本限定でリリースされる。少しだけ高いGT セラミカ(税込70万5500円)は、ローズゴールドカラーのインデックスを配した2層構造の複雑な外周ダイヤルを備える。一方、よりシンプルなデザインの3モデルがストラダーレバージョン(税込68万5000円)として展開され、ホワイト、バイオレット、ブルーのスーパールミノバ製インデックスを採用。外周のインデックス部はブラッシュド仕上げの円形リングで構成され、洗練された印象を与える。ダイヤル中央に大きく開いた開口部からは、COSC認定を受けたスケルトン仕様のセリタ SW200-1ムーブメントが覗く。


我々の考え

これは非常に意欲的な試みだ。たとえそれが、「この価格帯でこうした時計が実現可能である」ことを示す証明にすぎないとしても。最初にフォーメックスが約4000ドルのフルセラミック製ウォッチを出すと聞いたとき、正直それほど驚かなかった。というのも、すでにそれ以下の価格帯でもセラミックウォッチは存在していたからだ。いったい何が違うのだろうと。しかし実物のエッセンス セラミカを見て、その仕上げと質感の違いには素直に驚かされた。価格帯の近いほかのセラミックウォッチとは一線を画していた。そして何より、これと同等のフルセラミック製ブレスレット(クラスプまで含めて)を備えた時計は、ほとんど存在しない。ましてや、ここまでのマイクロアジャスト機構を持つモデルとなれば皆無に近い。スケルトンダイヤルは好みが分かれるだろうが、私としてはうまくまとまっていると感じた。今後、ソリッドダイヤルのバリエーションが登場することはまず間違いないだろ

 とはいえ、エッセンス セラミカがどの層をターゲットにしているのかという問いは残る。仕上げの優れたセラミックウォッチがこの価格で手に入るというのは非常に意義深いが、同時にこの価格帯は他ブランドへの選択肢が大きく広がるレンジでもある。つまりこの価格帯で時計を検討する人の多くは、より知名度の高いブランドのモデルとも比較検討することになるはずだ。そう考えるとこのエッセンス セラミカは、上位モデルに対しての“お得な代替案”としての位置づけがしっくりくる。たとえば、ゼニスのデファイ スカイライン スケルトンのセラミックモデルと比べれば、価格は4分の1以下で“オールブラック欲”を満たしてくれる存在とも言えるだろう。一方で既存のフォーメックスコレクターにとっては、これまでとは異なる、よりプレミアムな1本としての魅力を放つはずだ。

フォーメックス自身、このモデルが非常に競争力のある価格設定のスティール製モデルほどの大衆的な訴求力を持たないことは理解している。だからこそ、各バージョン88本の限定生産という形を取っているのだろう。しかし同時に、自社の製造力を誇示するフラッグシップモデルを出すにはこれ以上ふさわしいタイミングはない。

ショパール 41 XP CS アルパイン イーグルコレクション初となるプラチナモデルが登場した。

アルパイン イーグルコレクションでは初となる、プラチナ素材が導入された。2023年に登場したサーモンダイヤルのエクストラスリムモデル、アルパイン イーグル XPSがL.U.Cムーブメント搭載で好評を博したことに影響を受けたのは間違いないだろう。そして今回の新作にも、L.U.Cムーブメントが搭載された。本作では非常に明るいプラチナ950製ケースに、“シェード・オブ・アイス”と名付けられたクールな色調のフュメブルーダイヤルが組み合わされている。

Alpine Eagle 41 in Platinum

 真鍮にプレス加工を施したダイヤルには、アルパイン イーグルのシグネチャーである“鷲の虹彩”パターンが中央から放射状に広がる。アプライドの真鍮製インデックスにはX1グレードのスーパールミノバが塗布され、バトン型の針はブランドが掲げるエシカルなホワイトゴールド製だ。

 インデックスはかつてチタン製の8HFでみられたのと同じく、12時位置のみローマ数字、そのほかはシンプルなバトン型で構成されている。また本作ではXPSと同様に日付表示を排除しているが、サーモンダイヤルの兄弟モデルがスモールセコンドだったのに対し、こちらはセンターセコンドを採用している点で異なる。

 ケース径は41mmで厚さは8mm。シースルーバックからはCal.L.U.C 96.42-Lが鑑賞できる仕様でありながら、スポーツウォッチとして十分な100mの防水性能を確保している。マイクロローターにはプラチナ950が用いられており、その存在感は圧倒的だ。ふたつの香箱を積み重ねた構造によって、最大65時間のパワーリザーブを実現している。このムーブメントはほかのアルパイン イーグルに搭載されている標準的なショパール製キャリバーと比べて大幅にクラスが上で、仕上げも格段に手が込んでいる。ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ装飾が施され、アングラージュもそこかしこに見られる。テンワの上にはスワンネック緩急調整装置も備わっており、その美しさは目を見張るものがある。キャリバーはCOSC認定を得ており、本モデルはアルパイン イーグルとして3作目のジュネーブ・シール取得モデルとなる。

 ケース同様、ケース一体型のブレスレットもプラチナ製だ。ブランドによれば、本作ではテーパーを強調した新デザインのブレスレットを初めて採用したのだという。プラチナ使用量削減のためではないかと勘ぐる向きもあるかもしれないが、過去モデルよりも優雅な装着感を目指したものとも考えられる。興味深いのは、バックルのプッシュボタンはプラチナ製である一方、ブレード部にはホワイトゴールドが用いられている点だ。

 このプラチナ製のショパール アルパイン イーグル 41 XP CS プラチナは発売時期未定で、価格は11万500ドル(日本では予価1665万4000円)となる。


我々の考え

私はアルパイン イーグルの大ファンだ。2年前にはチタン製の8HFをコレクションに加えたのだが、これが私のコレクションのなでも最高の1本であるという点については、ジェームズ・ステイシーも同意してくれるところだろう。しかし今回発表されたプラチナ製の新作アルパイン イーグル XP CSは、まったく異なる方向性を持ったモデルであり、アルパイン イーグルとしてこれまでとは異なる市場に向けた提案であるように感じる。

Alpine Eagle Platinum LUC Caseback

 2019年のコレクション立ち上げ以来、これまでプラチナ製のアルパイン イーグルが存在していなかったという事実には正直驚いた。ブランドとしては自然な展開のように思えるが、やはりこれまではルーセント スティール™やエシカルゴールドといった物語性を重視した素材に注力してきた背景がある。しかしジュエリー分野からやって来た顧客が多いというブランドの特性を踏まえれば、プラチナの眩い輝きが魅力となることは間違いない。価格は11万ドル超と、時・分・秒表示のみのスポーツウォッチとしては非常に高額だ。この価格帯になれば、他ブランドの複雑機構搭載モデルとも競合することになる。ただし同様のプラチナ製モデルでもこれくらいの価格は珍しくはなく、さらにこのモデルが大量生産されることはまずないだろう。

 個人的には、ぜひ実物を見てみたい。単純にその“重厚感”を体感してみたいというのもあるし、リデザインされたブレスレットの仕上がりも気になる。テーパードが増したことでよりエレガントな印象になるのであれば、今後はアルパイン イーグル全体のラインナップにこの新しいブレスレットが採用されていくことを期待したい。

 今後数日にわたってWatches & Wondersの最新情報を引き続きお届けする。新作のすべては、こちらのページで確認できる。


基本情報

ブランド: ショパール(Chopard)
モデル名: アルパイン イーグル 41 XP CS プラチナ
型番: 295396-9001

直径: 41mm
厚さ: 8mm
ケース素材: プラチナ950
文字盤色: シェード・オブ・アイスのフュメダイヤル
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: 再設計されたプラチナ製ブレスレット


ムーブメント情報

キャリバー: LUC 96.42-L
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 27.4mm
厚さ: 3.3mm
パワーリザーブ: 65時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 29
クロノメーター認定: COSC認定


価格 & 発売時期

価格: 1665万4000円 (予価)
発売時期: 発売時期未定
限定: なし

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