インディペンデントシーンの新顔たちを追いかけ続けるだけで、

何が起きているのかをどうすればキャッチアップできるのか、そして有望な若手ブランドを見逃さずに“先取り”できるのか。そんな質問を受けることがある。そのとき私が伝えるのは、コレクターとのネットワークを大切にすること、そして注目すべきウォッチメイキングスクールの卒業生や受賞歴のある新進ブランドをチェックし続けることだ。もちろん、なかには立ち上げ当初から応援しているブランドが成功することに、個人的な思い入れや利益を持っている人たちもいる。

オーデマピゲスーパーコピー時計 激安とはいえ、雑多な情報のなかから本当に価値のある存在を見つけ出せるようになると、アレクサンドル・ハゼマン(Alexandre Hazemann)氏とヴィクトル・モナン(Victor Monnin)氏による“スクールウォッチ”のような逸品に巡り合えることがある。これは、ソヌリ・オ・パッサージュ・アヴェック・ジャンピングアワー・インスタント(パッシングチャイム付き瞬時切替式ジャンピングアワー)を搭載した限定20本の時計で、2種類のバリエーションで展開されている。

もしふたりの名前にピンと来たなら(ソヌリにかけたジョークじゃない)、それは彼らがF.P.ジュルヌ ヤング・タレント・コンペティションの受賞者だったからだ。正確にはアレクサンドル・ハゼマン氏が受賞したのだが、本人たちにとってはそんな区別に意味はない。というのもハゼマン氏とモナン氏はフランス・モルトーにある時計学校の1年目で出会い、すぐに意気投合した。この学校はシルヴァン・ピノー(Sylvain Pinaud)氏、テオ・オフレ(Theo Auffret)氏、ジュリアン・ティシエ(Julien Tixier)氏、レミー・クールズ(Rémy Cools)氏といった、そうそうたる時計師たちを輩出してきた名門である。ふたりは互いに、同じように努力を惜しまず細部まで手を抜かない姿勢と情熱を見いだした。それ以来、どちらかの成功はふたりのものとして分かち合われてきたのである。

 「彼と出会ったとき、物事を100%の完成度に仕上げるまで手を抜かないタイプだとすぐにわかりました」と、ヴィクトル・モナン氏はアレクサンドル・ハゼマン氏について語った。「なかには時間が来たらとりあえず手を止めるという人もいます。でも僕たちは、たとえ学校であっても仕事が終わらないなら、授業後に1時間でも残って仕上げるという考え方でした。だからほかの学生たちが教室を出ていくとき、アレックスがひとり作業台に残っているのを見て、“彼も自分と同じ価値観を持っている”と確信したのです」

ふたりが通っていた学校では、卒業時にジャンピングアワー付きのチャイム機構を製作するという課題が課されており、それを9ヵ月かけて完成させることでディプロマ(修了証)が授与される仕組みだった。すでに同居していたふたりは、チームを組んでより高い完成度を目指すことを決意する。課題の要件を満たすだけでなく、実用的で就職活動のアピールにも使え、場合によっては販売して次のステップに進むための足がかりにもなるような時計をつくろうと考えたのだ。そうして完成したのが、のちに“スクールウォッチ”のプロトタイプとなる時計である。だが、ふたりはさらにその先を目指し、F.P.ジュルヌのコンペティションに応募することにしたのだ。これは以前から、上級生たちが挑戦していたのを見て憧れていた舞台だった。ここから、ふたりが語るその後の物語が始まる。

「F.P.ジュルヌのコンテストが始まったとき、審査員から最初にこう言われました。“ブルーとグリーン、どちらかを選ぶなんてできない”と」と、ハゼマン氏は振り返る。モナン氏も続けてこう語る。「“どちらにも1位をあげたいけれど、ルール上それはできない”とも言われました。彼らはブルーモデルの技術的な設計を高く評価して、最終的にその時計に賞を与えることにしたんです。でも僕たちのあいだでは最初から決めていたんです。誰が受賞するかなんて気にしない。僕たちは常に“ふたりでひとつ”だって」

もちろん、受賞とともにその時計には多くの問い合わせが寄せられるようになった。当初、ふたりはブランドを立ち上げるかどうか迷っていたが、最終的にはスイスで理想的な工房を見つけてスペースを改装しながら少しずつ体制を整えていった。現在では外部からの資金援助を受けることなく、スタッフ9人のチームへと成長している。それはつまり、無駄な出費をできるだけ抑える努力が必要だったということでもある。ふたりは今も、学生時代に学校から購入した作業台や工具をそのまま使い続けている。だが時計づくりそのものでは、一切の妥協をしていない。


我々が彼らを好きな理由

この記事に掲載している写真の多くは、アレクサンドル・ハゼマン氏のプロトタイプを写したものだ。撮影はWatches & Wondersの初日、ホテルのバーで行った。ここでハゼマン氏の名をあえて強調しているのには理由がある。というのも、ふたりはこの最初のリリースにおいて非常にユニークなアプローチを取っているのだ。ハゼマン氏には彼自身のバージョンがあり、モナン氏にもまた異なるバージョンがある。それぞれ10本限定で、ケースサイズは共通して直径39.5mm、厚さ10.9mmのスティール製。だが、それぞれの時計師の美意識と得意とする技術に基づいた個性が随所に反映されており、仕上がりはまったく異なるものになっている。

アレクサンドル・ハゼマン氏のデザインは、よりテクニカルなアプローチを取っている。オープンワーク仕様のインダイヤルやアクセントにブルーを採用し、さらにダイヤル側にはセリフ体フォントを現代的かつ商業的な感覚で取り入れている点が特徴だ。

 「アレックスは開発や構造設計の才能に長けていて、3Dモデリングもコンピューター上で彼が担当しています」とモナン氏は話す。「僕はどちらかといえば、プロジェクト全体の管理や装飾職人やケースメーカー、業界の人たちとのやりとりを通じて、目標やスケジュールを明文化し、数値化していく役割が得意でした。そうした準備がすべて整ったあとで作業台の前に並べば、プロトタイプの製作や組み立てにおいてはふたりの腕前に差はありません」さらに言えば、モナン氏のほうがややアーティスティックな感性を持っていて、それが彼の“スクールウォッチ”にもしっかりと反映されているようだった。

いまの独立時計師にとって、仕上げの美しさは創造性やビジョンに次いで重視される要素だ。そしてそれは、ふたりの異なるビジョンが複雑に交差しながらも成立しているこのブランドにとって、どこか矛盾した話のようでいて実にうまく機能している。ベースとなるデザインも仕上げの完成度も申し分ない。ダイヤル側には3つのインダイヤルが配置され、12時位置に瞬転ジャンピングアワー、3時位置に分表示、9時位置に秒表示が並ぶ。そのインダイヤルを縁取るように1本の長いゴングがダイヤルの縁を走っており、正時になると7時と8時のあいだに配されたブラックポリッシュ仕上げの大型ハンマーがこれを1回叩いて音を響かせる。

言及せずにはいられない点として、これはクリストファー・ウォードのC1 ベル カントとどこか似た雰囲気がある、と感じる人もいるだろう。両者ともにソヌリ・オ・パッサージュを備えているからだ。ただし、クオリティ、デザイン、アプローチのいずれにおいても違いがわからないとしたら、もうこちらから言えることは多くない。この時計の開発は、クリストファー・ウォードのモデルが発表される前からすでに始まっていた。加えてこちらは瞬転ジャンピングアワーを搭載し、チャイムの音もはるかに力強く、明瞭で、耳に心地よい響きを持つ。ハイエンドな独立系ブランドによる本格的なチャイムウォッチであり、もちろんクリストファー・ウォードの革新性には敬意を表すべきだが、“複雑機構の入門機”として手ごろに楽しむための時計とは一線を画している。実物を手に取り、目を閉じて音を聞けば…その違いは確かに感じ取れるものだ。ヴィクトル・モナン氏のデザインにはマラカイトとオパールのインダイヤルを採用し、ムーブメントプレートには自身の姓であるMonninを刻んでいる。

 「スクールウォッチからスースクリプションモデルまで、まるで何千マイルも離れているように感じました」とモナン氏。「単にケースやムーブメントが小さくなったという話ではなく、すべてが新たなプロジェクトなのです。工房のこと、チームのこと、そしてもちろん時計そのものについてもそうです。僕たちは自分たちの工房でムーブメントをつくりたいと思っていました。これはとてもシンプルなことで、“すべてを自分たちでやる”という方針です。最初の設計からずっとそうやってきました。アレックスと僕でデザインと構造を担当していて、アレックスは工房のエンジニアでもあります。残りの部品については専任の部門があって、プロトタイプの段階ではあらゆるパーツを自分たちで製作できます。ただし量産になると話は別で、さすがに数千本のネジまでは自分たちで作っていません。それでも可能な限り、自分たちの手で作るという姿勢は変わっていません」

全体の美意識をひと言で表すなら、非常に“フレンチスタイル”だと言えるだろう。広い面積のフロスト仕上げのプレートに、深くていねいなアングラージュ。私は常々、カウントするためだけに内角の角度を最大化するような考え方に馬鹿げていると感じているが、このムーブメントは見せるための装飾に走るのではなく時計としての目的を果たすために必要な構造と美しさを両立させている。そういった意味では余計なものは一切なく、不足もない。ムーブメントは完全な左右対称ではないが、12時から6時にかけてのセンターラインに整然と軸がとおっており、視覚的なバランスは非常に心地よい。下部には大振りなテンプが鎮座し、ケース厚10.9mmという数値からは想像できないほどの奥行き感を感じさせてくれる。もしあえて1点だけフィードバックを挙げるとすれば、ケースがやや汎用的な印象で、個性がもう少し欲しいということだろう。細部まで手を抜かないふたりであればこの最後のピースについても、今後さらに深く掘り下げていくことに期待したい。